1月のカベタマ文庫のテーマは
”この世界からいなくなってなお、此処にあるもの”
◇パティスリーフランセーズ そのイマジナスィオンIフランスと日本の素材と技術の違い
弓田亨著
イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ
□19章
素材のイメージ
P204
(C)ガトー・フランボワーズのもう一つの例
もう一つ具体例をあげます。ガトー・フランボワーズです。
私は5年前の渡仏の時に食べた、真紅に熟したフランボワーズが忘れられません。
その妖艶な香りと押し殺した悲しみの中から少しずつこぼれ出るような甘酸っぱさは、
何かパリの枯れた葉に埋もれながら悲しい恋に胸を焦がす女性達の情炎のようなものを感じました。
そしていつか自分の技術でこんなイメージを表現したいと思っていました。
初めから、普通のジェノワーズではどうしても軽いイメージになることはわかっていました。
そんな時に、クロード・ボンテさんの本の中で、ビスキュイ・バニーユ・アマンドゥを知り、試作してみました。
わりあい重い歯ざわりの中に、すぐにでもサッと崩れそうな少し重いさくさがあり、
しかもフランボワーズの味に厚みを与えてくれるようなこくがあったからです。
それまで自分でフランボワーズのお菓子を組み立てたことがなかったので、やはりその本の組み立てを利用させてもらいました。
何度か試しましたが、どうもバラバラなんです。まず情炎どころか、どうしても水っぽい仕上がりになってしまいます。
これはアンビベのしすぎということはわかっていましたが、しかし少なくするとパサついた感じになります。
そこで、ビスキュイを十分に泡立てて、少し弱い熱170℃でじっくりと、少し焼きすぎるくらいまで焼いてよく空気の入ったものにして、シロを少し少なくすることで解決しました。しかし、まだ何か舌ざわりが水っぽいんです。
これは、フランボワーズの皮と果肉の繊維をできるだけシロに入れて、とろみをつけることが必要だったんです。
これによって、味に厚みが出ました。そして、酒もリクールを加えることによって味に幅は出たけれども、
静かに立ち昇るような香りが得られず、思い切ってオ・ド・ヴィも少し加えました。クレーム・オ・ブールも普通のかたく遅い口どけでは、恋心のきらめきは出ません。ムース状のクレーム・オ・ブールにしました。だいたいととのいました。けっこうおいしかったんです。
でも何かイメージと違う。重く押し殺したようなものがない。本当に困ったあげく、ガナッシュにフランボワーズのジューを入れてみたんです。すべてが不思議なくらいに、イメージにぴったりのものができたんです。心が張り裂けるように嬉しかった。自分の生涯の傑作だと思っています。もちろん、すばらしいカナダ産のフランボワーズにめぐりあえたことも幸いでした。
一見すると、ここで述べたことは、お菓子に必要のない無駄なたわむれと誰もが思うことかもしれません。しかし、この本に述べてきた技術というものが、そのようなイメージのもとに築き上げられてきたものだということは、真実なのです。
◇パティスリーフランセーズ そのイマジナスィオンII私のimaginationの中のrecettes
弓田亨著
イル・プルー・シュル・ラ・セーヌ
◇移動するものたち
MIGRANTES
ISSA WATANABE
◇ぼくの村は壁で囲まれた
パレスチナに生きる子どもたち
高橋真樹 著
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